「ふふ~ん。絶好調じゃない!? もう二つもスタンプをもらえたし」 三つ目のチェックポイントがある世界樹をぐるりと取り巻いている環状山脈に向かって 三人は飛翔している。初めは飛ぶことに抵抗のあったミカだったが、クエストを こなしていくうちに、飛翔することにも抵抗がなくなったようだ。 ただ元気なのはミカだけで、ユカは少し飛ぶスピードが遅れ始めており、ユウはと言えば 何かを思案するような表情をしていた。 「ユカ! 次の目的地は環状山脈のどこになるの?」 だか、ミカはユカの変化に気付いていない様子で、やる気に満ちた表情で聞いてくる。 ミカはまだまだ体力があり余っているようだ。 「ミカ姉。ちょっと休憩をいれない? 初めのころに比べると、他のパーティーもあんまり 見かけなくなったしさ」 体勢を整えなおした方がいいと思っているユウは提案をする。 「な~に言ってるのよ。確かに他パーティーはあんまり見かけなくなったけど、私たちの狙いは 一番なんだからね!」 (そうよ、こんなところで立ち止まってなんかいられない! 私は自分が最強だと スノークリスティに認めてもらうんだから!!) ミカはユカを見ると、手を差し出す。 「ユカ! よかったらチェックシートを私に戻してくれる? 今なら方向音痴も克服できる気が するのよね。こうやって簡単に飛べるようにもなったし」 そう言って、ミカは旋回して見せる。確かに未だ補助ステッキを必要としているユカに 比べれば、ミカの方が余裕があるのは明白だ。 「ねっ」 「じ、じゃあ……」 ユカはどうしたらいいのかと迷いながらも、ミカに従おうとする。 「ダメだ!」 だが、二人の間にユウが入ってそのやり取りを止める。 「な、何よ。そんな大声出して……。別に誰が持ってもいいものでしょ?」 「ミカ姉がこれを持ったら、さっきのオークキングの時のように、ボクたちに何も言わず一人で 勝手に行ってしまうだろ」 「別にいいじゃない。勝ったんだし」 「本当にいいと思ってるの? ボクたちパーティーを組んでるのに、単独行動しているミカ姉が 正しいと思ってる? もし本気でそう思ってるなら、何でメンバーを集めようと思ったの? このクエストが、複数人数じゃないと参加資格がなかったから?」 ユウは一気にミカに対して質問攻めをする。 「な、何よ……。そんな一気に言わなくても……私はただ……」 ミカはどう答えたらいいのかがわからず口ごもってしまう。 「あ、あの! 二人とも地図は私が責任をもって最後まで持ちますから! だから落ち着いてください!」 「でもっ……」 「……ユウ。私はミカを信じていますから」 「ユカ……」 助け舟を出してくれたユカにほっとしながらも、もやもやしたものが心の中に残っている気がするミカだった。 (何で、こんなに胸が苦しいんだろう? 私何も間違ったことなんて言っていないはずなのに……) まだ納得していないミカは、ユウの横顔をチラッと見る。 「それで第三チェックポイントなんですが、どうやら環状山脈の『東の虹の谷』『西の蝶の谷』『南の竜の谷』の 三か所からエーデルワイスを摘んでくると、それがスタンプになるみたいですね」 「エーデルワイス? 歌とかで出てくる花だよね」 ユウはあまり花には詳しくないのか首をかしげる。 「私もあんまり花は得意じゃないかも……」 「大丈夫ですよ。植物なら私が得意ですから。今回は私が活躍できそうですね」 そう言ってユカはユウに向かってウインクをした。 「っ!?」 ユウはユカに気を遣われていることに気付き、何となく気恥ずかしくなった。 「じゃあ行きましょう。ここから近いのは東の虹の谷のようですよ」 疲れが見えていたはずのユカは、元気いっぱいにそう言う。 「うん! 行こう!!」 ミカは自分の心の中にあるもやもやしたものを吹き飛ばすかのように、大きな声を出して気合を入れた。 そうしないと、すぐに何か黒いものに自分が捕まってしまいそうだったから。それは見ないようにするのが一番いいと、 ミカは考えることをやめた。 「ね、ユウ」 「ユカが……大丈夫なら」 「もちろん大丈夫です」 そう言ってほほ笑むユカの表情を見て、ユウはため息をついて「わかった」と答えた。そして三人は東の虹の谷に 向かったのだった。
「あ、あれがエーデルワイスですよ。あの白い花」 崖の先に咲いているエーデルワイスを指さして、ユカが叫ぶ。東の虹の谷は歩きづらい場所ではあったが、 エーデルワイスが咲いていた場所は崖になっており、とても見晴らしがよかった。 ……つまり、採取するのを一歩間違えれば落下してしまうということ。といっても、ALOの世界では 飛翔することができるので、特に危険はないともいえる。 「よーし! じゃあ私が採ってくるね!」 ミカはそう宣言すると、一人で崖の端にまで平然とした態度で取りに行く。いくら背中に 羽があるといっても、現実世界では羽のない人間。多少の恐怖を感じてもよさそうだが、そういう繊細なものは 全く持ち合わせていないようだった。 「気を付けてくださいね~」 「……」 ユウはミカの後姿を見てから、背を向けて森の方に意識を集中させる。みんなが崖に集中している間に 後ろからモンスターが現れたらシャレにならないと思ったからだ。 (どんな時でも注意を払ってないと、何が起こるかなんてわかんないし) 「やったー!! 採れたよ! エーデルワイスGet!! って、きゃっ!?」 エーデルワイスを取ったと同時に、ミカがしゃがんでいた崖の端が崩れ、崖ごとミカは落ちてしまいそうになる。 「ミカっ!!」 そして、ミカをずっと見ていたユカが驚いて助けに行こうとすると、ユカが立ち上がった場所も 同じように地面が崩れた――。 「お、おいっ!?」 後ろの異変に気付いたユウが振り返ると、二人が崖から落ちそうになっていた。ユウは瞬時に ミカは自分で飛べるが、ユカは補助ステッキがないと飛べないことを思い出し、ユカを助ける決断をした。 「ユカっ!!」 ユウは羽を動かして、崖から落ちたユカを追いかける。 「っ!!!!!!」 ユカは恐怖のあまりに声も出せずに真っ青になって、地面に向かって落ちている。 「ユカっ! 目を開けて! ボクの手につかまって!!」 落下しているユカはユウの叫び声に気付いて目を開ける。すると、上から羽を広げたユウが自分のもとへと 来ていることに気付いた。 「ユウっ」 ユカは飛んでいるユウを見て自分も飛べばいいんだと気づいたが、この落下スピードの中で補助ステッキを 出す余裕がない。 「手をっ! ボクが引き上げるからっ!!」 「!!」 そう言われてユカは上に手を伸ばす。助かりたいと願いながら必死で。 「もうちょっと……っ!!」 ユウとユカの手の距離が、一メートル、五十センチ、十センチ……そして、 ガシッ 空中で手を握り合う二人。ユウに予想していた以上の負荷がかかったが、何とか耐えきりユカの救出に成功した。 「……ありがとうユウ。死ぬかと思いました……」 「助けられてよかった」 空中に浮かびながらユウはほっと一息つく。 「あっ! ミカはっ!?」 二人が上空を見上げると、エーデルワイスを手に持ったミカが飛翔しながら気まずい表情をしていた。 「ミカ姉……」 ユウがミカに何かを言おうとすると、ユカがそれを制した。 「私は無事だったんですし、責めないでください」 「……でも!」 「大丈夫です。ミカは自分で気づくことができますから」 「……」 ユカはミカに対して強い信頼を抱いているのか、強い瞳でミカを見上げてにっこりとほほ笑んだのだった。
その後も、残りの二か所のエーデルワイスを無事に採取し、三人は三つ目のスタンプを押し、次の ステージへと向かった。