第五のチェックポイント、地下世界『ヨツイヘルム』。ここは要塞としても知られており、初心者はあまり来ることのない場所だった。
 積層構造になっており、地下に潜るほどにエンカウントするモンスターも強力になっていく。中級プレイヤーでも
モンスターに当たれば、死ぬか生きるかギリギリのところだろう。
 そんな中を、チームワークを手に入れた三人が歩いていく。先頭を歩くミカ。ミカの腕に腕を絡めて歩くユカ。その後ろから、ユウが
ついて歩く。美しかった世界とは打って変わって、おどろおどろしいこの空気感は、ユカが最も苦手とするものだった。
リアル世界でも、ホラー系は苦手分野。昔はよく怖くなると、お姉ちゃんに抱き付いていたなと、ふとユカは思い出した。
 『お姉ちゃん』は血のつながりのあるお姉ちゃんではない。近所に住む幼馴染で、実際には歳は一歳しか離れていないが、子どもの
ころからしっかりとしていて、とても頼りになる人だった。もちろん今でも会ってはいるが、歳をとる度に会う回数は減っていた。
(お互いに忙しくなったから仕方がないんですよね。でも、寂しいというのも本当の気持ち……)
 ユカはそんなことを思いながら、ミカの腕を抱きしめる力を強めた。




 モンスターが現れたら即終わりだと思っていたが、一度もモンスターに出くわすことなく最下層にたどり着くことができた。
だが、目の前で繰り広げられている状況を見て、ミカたちは絶句する。
「うあぁぁぁぁ!!!!!!」
 バッシューーーーーン
 重層鎧を着こんだサラマンダーが、壁際に吹き飛ばされ、その姿を消した。……攻撃を避けきれずに、HPがゼロになったためだ。
 攻撃を仕掛けたのは、ミカたちから少し離れたところに立っている人物。剣を振り下ろし入り口付近に立っているミカたちを見る。
「次はお前らか……」
 そこに立っていたのは、開会式の時に姿を現したスノークリスティ―だった。彼女は開会式の時の口調とは違い、少し威圧的な
物言いをする。
「スノークリスティ……どうして?」
 ミカは思わずその名前を呟く。スノークリスティは、ミカを見てフッと笑う。
「すごいな。私の覇気を浴びて言葉を出せるなんて」
「え……?」
 そう言われてユカとユウを見ると、二人は首を振っている。どうやら声を出せないようだった。
「まぁ、いい。これから最終チェックポイントの説明をする。このウォークラリーに何人で参加していたとしても、ここでは
三人がマックスの状態で私と戦うこと。……つまりPvPで私に勝てば、見事クリアというわけだ」
「なっ!?」
 ミカは驚く。今までのようにすぐに『やってやるぜ!』とは気軽に言えなかった。いつかスノークリスティを越えたいという
願望はあるものの、今の自分では力量に差がありすぎることを知っているからだ。
(そう……自分一人の力量では)
 ミカは両隣にいる、ユカとユウの背中をバシンと叩く。
「きゃっ」
「うわっ」
 驚いた二人は思わず声を出してしまう。
「なーにぼさっとしてんのよ。やるわよ! 三人で力を合わせれば、たとえ相手がスノークリスティでも勝てるわ!」
「!」
「!」
 ミカの言葉に、ユカとユウは顔を見合わせて笑顔を作った。そして、三人はフォーメーションを作る。
前衛は右にミカ、左にユウ。そして後ろにユカ。
「……こいっ」
 スノークリスティも剣を構える。と同時に、ミカとユウは走り出す。
「行きますよ! 先ほどアルフさんから頂いた連携魔法!!」
 ユカは後方で長ったらしい呪文を唱えて、目の前の三人が剣を交える前に魔法を発動させた。
 ピカ――ッ
 次の瞬間、ミカとユウの身体が光に包まれ全パラメーターが上昇する。身体が急激に軽く熱くなる。
「サンキュー! ユカ! ……ユウ」
「わかってるよ、まずは……」


 ガキーーーン


//uploader.swiki.jp/attachment/full/attachment_hash/7b5bad7be25ce5ea92c8e18153dea2ed84765b6e


 スノークリスティの剣をミカとユウの剣が受け止める。三つの剣が合わさり、剣が刃こぼれを起こす。
「ほぅ……私の剣を受け止めるとは」
 スノークリスティが感心したような声を出す。だがまだまだ余裕があるようだった。
「でも、これはどうかな?」
 スノークリスティは剣に力を入れたまま、片足でユウの腹をける。
「ぐっ!?」
 ユウが吹き飛ばされ、一人になったミカもスノークリスティの剣を受け止められずに吹き飛ばされた。
「ユウ! ミカ!」
 ユカは慌てて回復魔法のスペルを口にする。だが、スノークリスティは吹き飛ばした二人を追わずに、ユカの方に走ってくる。
「……っ!」
 まさか自分が狙われると思っていなかったユカは蒼白になってしまう。
「さ、させるかぁぁぁぁ!!!」
 吹き飛ばされながらも、ミカは呪文を唱えて炎の魔法を発動させる。
「何!?」
 スノークリスティは振り返り、襲ってくる炎をひらりと避けた。そして、ユカを狙うのをやめてミカにとどめを刺そうと、ミカに
攻撃をするために走り出す。最初の一撃だけで黄色のゲージにまでなっていたミカは、次の攻撃を受けるとひん死状態か、HPがゼロに
なってしまうだろう。
「!! 強いっ! でも!」
 ミカはあきらめずに、地面にしっかりと足をつけてスノークリスティを迎え撃つ準備をする。
「一人で何ができる!?」
 スノークリスティは剣をミカに振りかざす―――
「ミカ姉は一人じゃないっ!!!」
 と、そこでミカとは反対側に吹き飛ばされていたユウが、パラメーター補強された速さでスノークリスティに攻撃を仕掛ける。
その攻撃は軽々とよけられてしまうが、スノークリスティに一瞬のスキができた。
「いまだ! ミカ姉」
「!!!」
 ミカはアルフにもらったもう一つの連携魔法を発動させる。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「しまっ……!!」
 ドッゴォォォォン
 恐ろしいほどの爆発が起き視界がゼロになる。
 少し離れたところにいるユカからは、戦況がどうなったのかがわからない。
「ミカ! ユウ!?」
 ユカは自分の弱さも忘れて、二人の元へと駆けつける。やがて煙はなくなり、そこには肩で息をしているミカとユウの姿があった。
「……よかった!」
 ユカは戦闘中だというのに、二人に飛びつく。
「わっ、ユカ。待って、まだスノークリスティが……って、あれ?」
 ミカは抱き付かれながらも、彼女の姿を探す。だが、先程までいた場所にスノークリスティはいない。
「ミカ姉! あそこ!」
 ユウに言われて、頭上を見上げると、飛翔しているスノークリスティの姿があった。HPは四分の一ほど減っているが、緑の
ゲージのままだった。
「くっ!」
 三人はすぐに離れて、戦闘態勢をとる。だが……。
 パチパチパチ
 スノークリスティは手を叩いていた。
「合格だ。三人とも」
「「「え?」」」
 手を叩いているスノークリスティには戦闘意志は全く見えない。笑顔で手を叩きながら、三人の前にスタンプを差し出した。
三人は、まだ状況が呑み込めていない様子で、ただスノークリスティを見つめるばかり。
「何だ? 受け取らないのかスタンプ」
「え、あ、はい」
 ミカは何とか差し出されたスタンプを受け取る。
「ここでのPvPは本気の戦いじゃないよ。だって私と君たちとではスキルの差がありすぎるだろ? だから、私に一撃を与える
ことができれば、それで合格だったんだ。……まぁ、最後の連携魔法はちょっと驚いたけどね」
 そう言われても、やはりまだ現実味がない。ぽかんとした三人にスノークリスティはさらにこう言う。
「いい仲間を見つけられたな」
 と、ユカにウインクをしたのだ。
「「??」」
 ミカとユウはさらに首をかしげるが、ユカは、
「はい!」
 と、笑顔で答えた。



執筆:如月わだい
企画:スカイプ通話しながらオンラインゲームWiki
ラーミア, yayoi shirakawa ,柊正一
挿絵:柊正一
原作:ソードアート・オンライン


第九話「牧場ウォークラリー閉会式」の連載予定は四月二十六日頃になります。お楽しみに!


ホーム リロード   新規 下位ページ作成 コピー 一覧 最終更新 差分 バックアップ 検索   凍結解除 名前変更     最終更新のRSS