何となく気まずい空気をまとった三人は、第四のスタンプを求めて世界樹へと向かっていた。
VRMMO時代のALOでは、世界樹を攻略することが最終目的とされていたが、このパソコン版のALOでは、世界樹を
攻略することが目的とはされていない。パソコン版のALOはVRMMOのGGOの後に作られた製品。世界樹には
一階から頂上に向かってのエレベーターが実装されており、誰でも簡単に行き来することができる。
 最上階にはアルフが住まう空中都市イグドラル・シティが存在している。アルフ……つまり、ユカが属している
種族が本拠地にしている場所だ。今回はこの空中都市イグドラル・シティで武器をそろえてから、世界樹の
たもとに向かうようにチェックシートには書かれていた。


 三人は世界樹のたもとにたどり着く。だがまだ武器をそろえていないため、何も起きない。
このクエストは、武器を購入した後に何かに反応して出現するようになっているようだった。
「とりあえず、空中都市に行こう。二人はちゃんとマニーを持ってるの? っていうか、ユカは
アルフだから空中都市のことは知ってるんだよね?」
 初めに比べるとちょっとだけ声のトーンが落ちたミカは、それでもリーダーらしく仕切ろうとした。
「はい、知ってますよ。とーっても綺麗な場所です。下界を一望できるところがあって、そこからの眺めは
最高ですよ!」
「あ、でも今回はクエストが……」
 ミカが言おうとして、口を紡ぐ。不機嫌そうなユウの姿が視えたからだ。
(一番になるには寄り道なんてしている場合じゃない。けど……、本当にそうなのかな?)
 と、そんなことを思った自分自身に、ミカは驚く。
「……はぁ、わかってるよ。別にボクはミカ姉に無理をしてほしくないだけで、ミカ姉の行動すべてが
ダメだとは思ってないから。今日はクエストを優先して、終わってから三人で見学に行こうよ」
「ユウ……!!」
 ミカはこみあげてくる感情のまま、ユウに抱き付く。
「わっ!? ちょっとミカ姉!?」
 ユウは力強くミカに抱きしめられ、ミカの甘い香りがこっちにまで届いてきそうだと思った。
「うふふ。仲がいいですね、お二人は」
「あぁもう! ユカにも抱きついちゃう!!」
「きゃぁあ!」
 ミカは左手でユウを抱きしめ、右手でユカを抱きしめた。三人はこれ以上ないほどに引っ付き、まるで
三人で一人の人間のような感覚になる。
(ってボク、男なんだけど。何なんだよこの状況!?)
 ユウの心の叫びを無視して、しばらく抱き合ってから三人はエレベーターに乗って空中都市
イグドラル・シティに向かった。



 エレベーターで頂上にたどり着くと、そこは下界とは全く違う美しい街が広がっていた。花や蝶が
飛び交っており、エデンのような場所だとミカとユウは感じた。
「ね、素敵なところでしょ」
 ここに来たことのあるユカが、二人を武器防具屋に案内すると言って先導してくれる。戦いでは補助的な
役割の彼女だが、今回のクエストの中で一番役立ってるのは、実はユカなんじゃないかと、ユウは思い始めていた。



「ここがこの街で一番大きなお店ですよ」
 ユカに案内された店は、外装もさることながら内装もとても丁寧に作られていた。
「すっごーい! こんな剣、見たことないよ!!」
 早速武器に夢中になっているミカは大声を上げて、どれを買うかの品定めを始めた。
「ねぇ、ユカ。ここが街で一番大きなお店って言ったけど、他にもお店はあるの?」
 店の雰囲気を確認しながら、小声で聞いてくる。一応この店の主人に気を遣っているのだろう。
「あ、はい。ありますよ。NPCじゃなくて、他プレイヤーが店を開いたりもしていますから。ですが……今回は
初心者用のクエストなので、武器を買うとしたらここかなと思いまして」
「なるほどね。さすがユカ。じゃあボクも早速買ってこようかな」
 ユカの説明で納得したユウは、少しだけ重い剣が置いている場所を見に行った。
(ユウって不思議な人。子どもっぽいところがあるように見るのに、ちゃんと周りも見ていますし、人も見ていて……。
今の中学生って、しっかりしているんですね)
 ユカはユウの後姿を見て微笑む。
(戦闘力の低い私だけど、この二人のためだったら支えになりたいって思える。二人に負けないように、私も頑張んなきゃ)
 そう決心し、ユカもメイスを選びに向かったのだった。


「まいど~!」
 上機嫌のNPCは大きな声でそう叫ぶ。そうプログラムされているからだとは思うが、こんなにたくさんの武器と防具を
買ってくれたから嬉しそうにしているようにしか見えなかった。
「そうそう、三人はクエスト参加者だよな。この証明書を持って行ってくれ」
 店主はそう言うと、IDパスのようなカードをそれぞれに渡した。ここの店主はいつもこんなおまけを
つけるのかと、ユカを見ると首を振った。
「ここで買い物をして、こんなことを言われたのは初めてです」
「ってことは、ここで買い物をしたのが正解ってことだね! よっしゃー! じゃあ、早速世界樹のたもとに戻ろう!
 何が起こるのかはわかんないけど、こんなめっちゃ強い武器と防具をつけた私たちには怖いものなしだよ!」
 いつもの調子を取り戻したミカは、大はしゃぎでそう言う。その姿を見て、ユウはため息をついたのだ。



 エレベーターで世界樹を降り、指定されていた場所に行くと、登る前にはいなかった覆面のアルフが一人立っていた。
「覆面!?」
「……嫌な予感がしますね」
 及び腰になったユウとユカだが、ミカは全く気にせず一人突っ込んでいく。
「うぉぉぉぉっ!!!!!」
「あ、おい!?」
 相手が敵なのかどうかもわからないうちから、覆面アルフを敵とみなしたミカは切りかかりに行く。だが覆面アルフは
ミカに気がつくと、その攻撃を軽々とかわした。
「なっ!?」
 空振りをしてしまったミカに隙が生まれ、そこに覆面アルフが攻撃を仕掛ける――
 ガッ
「きゃあっ!?」
 ミカはユウとユカがいる場所とは反対側に吹き飛ばされた。さっき購入したばかりの防具が、対アルフ用に施されたもの
だったため、ダメージはそれほど受けていないが、こちらの攻撃がかすりもしなかったので危機的状態には変わりない。
「あの……ばかっ!」
 ユウは剣を取り出し構える。
「ユカ、援護を頼む」
「わかりました! できればミカにも回復魔法をかけたいのですが……」
「ボクがこっちにミカ姉を連れてくるよ」
「お願いします!」
 二人がそうやって話している間にも、あきらめの悪いミカは一人で覆面アルフに向かって攻撃を仕掛ける。
何度も何度も。だが、どの攻撃も当たらない。
「ちくしょー!! なんでだよ!!!」
「ミカ姉! 落ち着け! こっちに来て、一度体勢を整えよう!」
 ユウは叫びながら覆面アルフ越しにミカに訴えかける。覆面アルフはユウにも気づき攻撃を仕掛けようとするが、
ユカが補助魔法をかけてくれたおかげで吹き飛ばされずにすんだ。と言っても、HPは少しだけ減少してしまったが。
「嫌だ! だって私は最強の戦士になりたいんだ! だからこんな所で、立ち止まるわけにはいかないんだよ!!!」
 ミカは悲鳴にも近い叫び声をあげる。ミカは自分の感情さえも自分で制御できていないのか、そのまま剣を振りかざす。
だが、やはり剣は当たらずに空振りをし、覆面アルフの攻撃を受ける――!
「ぐっ!?」
「ミカ姉っ!」
 吹き飛ばされたミカ姉をユウは素早く移動し受け止める――が、素早さはあっても力は弱いため、受け止め
きれずに一緒に飛ばされてしまう。
「ミカ! ユウ!」
 後方に控えていたユカが叫ぶ。そのせいで覆面アルフに存在がばれてしまったが、ユカに攻撃を仕掛けようとは
しなかった。それでもユカは、この場所から動くと、相手の攻撃範囲内に入ってしまうかもしれないと思い、動くことができない。
(今私が前衛に出ても、何の力にもならない……!)
 ユカは自分の無力さを痛感しながらも、吹き飛ばされた二人を見る。二人のHPは黄色のゲージになっては
いるものの、無事のようだった。
「くっそ! 今度こそ!!」
 ミカはユウに抱き留められたおかげで、それほどのダメージを受けなかったが、勝てないことへの焦りは募るばかり
だった。ミカはムクリと起き上ると、また剣を構えて走り出そうとする。
 ガシッ
 だが、ミカの左手をユウが握り、走りだせなくなってしまった。
「離せ! ユウ! あいつを倒さなければ!!」
「……いい加減目を覚ませよ! ミカ姉! あんたの力じゃ、全く通用しないのがわからないのか!?」
「っ!? う、うるさい! そんなことは……そんなことは……っ!」
 ミカはギリギリと歯ぎしりをする。それはちゃんと自分が、敵わないことを自覚している証拠だ。
「それでも私は、私はあいつに勝つんだ。たとえこの命が尽きても!!」
「っ! 命が尽きても……」
 ユウの脳裏に、SAOで本当の命を落とした姉の姿がよぎる。
「こ、このバカミカ!!」
 バッシィィ
 ユウは思いっきりミカのほっぺを叩く。
「!?」
「命尽きてもなんて気軽に言うんじゃない! ボクの本当の姉はあのSAO事件で本当に命を落としているんだ!」
「……え」
 ミカはその言葉で、ようやく我に返る。ゲームの世界なのに、小さな男の子が目の前で泣いているように見えた。
プログラムのこの世界で『泣く』というコマンドはないのに。
「で……でも。私は最強に……」
「……最強って、1人でなりたいのかよ。ボク、ミカ姉に聞いたよね。なんでこのパーティーを組もうとしたのかって。
あの時は答えてくれなかったけど……パーティーってさ、力を合わせるためのもんじゃないのか」
「力を合わせる……」
 ミカの表情がピクリと動く。
「ミカ姉だって、それができないわけじゃないんだ。だって、一番初めのチェックポイントの時は、ちゃんと三人で
力を合わせて戦ったじゃないか」
「……!」


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 ユウはミカの手に手を当てる。
「ボクたちを信じてよ。一緒に戦おう。一緒にミカ姉が目指している最強になっていこう。ね、そのための
パーティーだろ?」
「!!!」
 ミカの瞳にだんだんと光が戻り始める。そして……ゆっくりと頷いたのだった。
 と、その時――
 ピカッ!!
 止まったままになっていた覆面アルフがまばゆい光を解き放つ。
「!? ミカ姉! とにかく、ユカの元へ行こう!」
「う、うん!」
 ミカとユウは手を繋いで、一人取り残されているユカの所に移動した。三人が同じ場所に揃うと、光は一層激しくなり
周りが見えなくなる。
 バシューーーーーン
 そんな音が聞こえたかと思うと、光は消え去り先ほどまでの景色が見える。
「な、何が起きたんだ?」
「み、見てください! アレフの覆面が外れてます!」
「!?」
 ユカにそう言われて見てみると、確かに覆面は外れていた。そして、覆面の下にあった顔はと言うと、穏やかで
優しい表情だった。
「パーティーの結束力を確認いたしました。これより、連携魔法の継承を行います」
「「「えぇっ!?」」」
 突然のことに、三人は同時に声を発する。だがアルフはそんな三人にお構いなしに、手を上空に上げ光の玉を作る。
そしてそれを三人に向けてゆっくりとかざした。光の玉は三人の上で三つに分裂し、それぞれの身体に入っていく……。
「これは火・光・影の三つの力で構成された連携魔法。アルフ族が呪文を唱えることで発動し、一時的に
全パラメーターを上げることができる」
「!」
 三人は顔を見合わせる。だが、アルフはもう一度、手を上空に挙げて茶色の光の玉を作り、手をかざすと、ミカたちの
頭上に球が移動し、二つに分かれてミカとユウの身体に吸収された。
「これはおまけです。火・影の二つの連携魔法は、必殺技の発動。呪文は二人同時に叫ぶことが発動条件
となります。最後まで頑張ってくださいね」
 アルフはそう言うと微笑んで、姿を消した。アルフがいたところには、スタンプが落ちている。どうやら連携魔法を
受け取ることが、第四のチェックポイントの試練だったようだ。
 三人はヘナヘナとその場に座り込む。
「覆面のアルフが敵じゃなかっただなんて……」
 ミカが呟くようにそう言うと、ユウが軽くミカの腕を押した。
「ミカ姉が暴走するから、こんなことになったんだよ。ちょっとは反省してよ」
「う……」
 二人の間にあった硬い空気がなくなっていることに気づき、ユカは嬉しくなる。
「そうだ。二人に回復魔法をかけなきゃですね」
 ユカはそう言うと、呪文を唱えて二人の傷を癒した。
「サンキュー、ユカ。色々心配かけてごめんね」
「いいえ、私はずっとミカを信じていましたから」
「……ありがと」
 ミカは優しく微笑んで世界樹を見上げる。この世界ってこんなに美しかったっけと、不思議なぐらいに
周りがクリアに見えた。
(仲間……か)
 その響きが何だか尊いもののような気がして、ミカは少し照れくさくなった。
「次が、最後だよね。チェックポイントはどこにあるの?」
「次は……」
 ユカがチェックシートを実体化させて確認する。
「……この下ですね」
「え? それって……」
「はい、地下世界ヨツイヘルムです――」



執筆:如月わだい
企画:スカイプ通話しながらオンラインゲームWiki
ラーミア, yayoi shirakawa ,柊正一
挿絵:柊正一
原作:ソードアート・オンライン


第八話「第五チェックポイント」の連載予定は四月十九日頃になります。お楽しみに!



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