「ユカ、第一のチェックポイントは古森の奥であってるんだよね?」 三人はミカを先頭に森の中を駆け抜けている。スノークリスティ―からもらったチェックシートは、すでにミカからユカに渡されていた。 ミカは地図を見るのが苦手というのもあるが、落ち着きのないミカには不向きだとユウにも言われたからだ。 「はい、間違いありません!」 走りながら地図を見るという、初心者にとっては高度な技を強いられているユカは、ミカのために頑張ってこなしている。 「この辺りはサラマンダー領だから、私についてくれば間違いないよ!」 「頼もしいです!」 「……いや、多分第一チェックポイントってチュートリアル的なものだろ? もうちょっとゆっくり行ってもいいんじゃないか? ほらさっきだって、『ここでは飛ぶ練習をしてみましょう』とか言ってる、あきらかに不自然な位置にNPCがいたし」 二人に並んで同じように走っているユウが、後ろを振り向きながらそう言う。 「そんなのいた?」 「さすがですね。私、全く気付きませんでした」 「私も!」 「……」 ユウは走りながらため息をつく。前しか見ていないミカに、ミカについて行くだけで必死なユカ。この二人には全くと言っていいほど ゆとりがなさそうだ。 「でもさ、今さらそんなのおさらいしたって意味ないじゃん。ユウもユカも飛べるんでしょ?」 「……補助ステッキがあればなんとか飛べます」 「ボクも飛べるけど……って、じゃあなんで走ってるんだよ。時間制限はあるものの、急いでるなら飛んだ方が早くない?」 ユウが当然の質問をする。上空を見上げれば飛んでいる他プレイヤーたちがいる。ALOの世界では、俊敏のスキルを上げるよりは 飛行のスキルを上げたほうが、早く移動することができる。もちろん、俊敏力も900以上あれば、そこらの飛行スキルを持っている人よりは 早いが、初心者プレイヤーのパーティーでは、飛んだ方が早いのは火を見るよりも明らかだ。 「……実は私飛ぶのが苦手で」 と、ありえないことを言うミカ。 「おい! だったらあんたこそさっきのチュートリアル……うぐっ」 ユウが言い終える前に、ミカがユウの首に腕を絡ませる。 「あんたじゃなくて……ミカ姉でしょ!」 「そんな名前で呼べるかよ!!」 「そんな可愛い顔してるんだから、それを利用しないなんてもったいないわよ」 「うるせー! 男に向かって可愛いなんて言うなっ」 ミカとユウは足を止めて取っ組み合いのケンカを始めてしまう。その間にも、他プレイヤーたちは上空から追い越していく。 「ミカ、ユウ。落ち着いてください。ケンカをしていては、ここまで走ってきた意味がなくなってしまいますよ」 「う……」 「……」 ユカの言葉で我に返ったミカは、深呼吸をする。ユウはフンッとミカに背を向けてしまうが、それでもケンカは一応収まった。 「そうだったね。私たちは絶対に一位になるんだから、こんな所でもめてる場合じゃないよね。サンキュー、ユカ」 そう言って、ユカの肩をポンとたたく。 「い、いえ……」 ユカは嬉しそうにはにかんで森の先を見つめる。 「でも、皆さん飛んでいますけど、本当にチェックポイントは上空からわかるものなのでしょうか?」 「え?」 「……?」 ユカの言葉に、後ろを向いていたユウもユカを見る。 「第一のチェックポイントは、チュートリアル的な役割だとユウさんがおっしゃっていたじゃないですか」 「う、うん。現にさっき、飛ぶ練習をしようとか言ってるNPCがいたし、もっと入り口付近には魔法の使い方を練習しようって 言ってたNPCもいたしな」 「そうなの?」 全く気付いてなかったミカは、ユウの言葉にまた驚いてしまう。 (私は全速力で走っていたのに、ユウはあのスピードの中でも周りを見る余裕があったってこと……? もしかしてユウって、実はスキルの熟練度が高いんじゃ……?) まだこのパーティーで戦闘をしていないため、お互いの能力の高さがわかっていないというのもある。ミカは何となく 心にモヤモヤしたものを感じた。 「地上を走っている私たちでも見落としてしまうようなイベントがあったわけですよね? それなのに上空を飛んでいる人たちに発見できるでしょうか?」 「あ……」 ユウは何かに気づいたのか声を上げる。 「え? どういうこと?」 ミカはまだ理解できていない様子で首をかしげる。 「第一のチェックポイントは、本当に初心者に向けたクエストだということです。初心者は飛行が上手ではありませんから、森の中を 突っ切るしかないですよね。だからきっと、チェックポイントも古森を地上から行かないと見つけづらいところにあると思ったんです」 「すっごーい!!」 「きゃあっ!?」 ミカは勢いよくユカに抱き付く。 「ユカってすっごく頭がいいんだね! ってことはさ、空を飛んでる他プレイヤーよりも先に第一関門を突破できる 可能性が高いってことだよね」 「そ、そうです」 ミカにギュウギュウと抱きしめられているユカを見て、ユウは少しだけ羨ましく思ったが、何でそんな風に思ったのかが 理解できず首を振った。 「どうした? ユウ」 「な、なんでもないよ。それより、急ぐんだろ。早く行こう」 「おぉっ! 何かわかんないけど、ユウもやる気になったんだね。よーしじゃあ出発だーー!!」 こうして三人はまた、猛ダッシュで森の中を駆け抜けていった。 #br 森の中に設置された、チュートリアル的なイベントをすべて無視し(と言っても、存在に気付いているのはユウのみだが)、 三人はついに第一チェックポイントにたどり着いた。 そこはサラマンダー領と世界樹の領の中間地点。鬱蒼とした森の中で薄暗く光っている樹の幹があり、そこにハンコが 置いてあるようだった。だが、今はそのハンコを確認することができない。なぜなら三人の前には、一体のトカゲが立ちふさがって いたからだ。オオトカゲはボス級の強さだが、ただのトカゲはそれほど強いモンスターではない。 ただ、見た目があまり可愛くないため女性からすると、その容姿だけで多少は、やる気がうせてしまう。 「でたなー! モンスターめ。あいつを倒せば、第一チェックポイントは完了ってことだよね」 「きっとそうです。おそらくはここでモンスターとの戦い方を学ぶチュートリアルになっていると思うので、このチュートリアルを 終わらせれば完了と考えられます!」 だがトカゲの容姿は、ミカとユカには何の効果も与えなかったようだ。 「りょーかい! ユウ! 私と一緒に前線で戦える?」 「誰にものを言ってるんだよ。当然だろう!」 「そうこなくっちゃ! ユカは後ろで補助魔法と何かあったときの為に回復魔法をすぐにかけられるようにしておいてね」 「わかりました!」 ミカ、ユウが横並びでトカゲと睨みあい、二人の後ろでユカが手を広げた。 「じゃあ行くよ~! GO!!!!」 ミカの掛け声とともに、二人はトカゲに立ち向かう。 「え~い! 補助魔法です!」 ユカがそう言うと、駆け出したミカとユウの身体がボワッと暖かくなる。 「一時的に防御力を上げました。防御を気にせず頑張ってください!!」 「ありがとう! ユカ!」 俊敏力の高いユウが先にトカゲに切りかかる。 「ぐぉっ!?」 ユウの剣がトカゲの足に致命的な傷を負わせ、トカゲのHPが一気に三分の一減った。そして、トカゲがふらついたところを、 飛翔の苦手なミカが飛び、呪文を唱える。 「これでもくらえ~~!!!!!」 サラマンダーお得意の火炎魔法が、身動きの取れないトカゲを飲み込んだ。 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」 雄たけびとともに青い光が閃光し、トカゲは消滅した。 「やったぁ!」 ミカは空中でガッツポーズを取り、ユカはミカを見挙げてニッコリと微笑んだ。ただユウだけはため息を隠せなかった。 チュートリアル的な意味合いの強い第一のチェックポイントは何とかなったものの、本当にこのままで大丈夫なのかという不安があったのだ。 彼はある程度の力を持っているものの、後ろ向きな考えに囚われてしまいがちなので本当はこういった冒険には向いていない。 バシッ 「いって」 いつの間にか地上に降りていたミカが、ユウの背中を叩いた。 「何すんだよ!」 「勝ったんだから、こんな時ぐらい笑顔になりなさいよね。そうじゃないと、こうだよ~」 そう言って、ミカはユウの髪の毛をぐしゃぐしゃとしながら撫でる。 「やめろよ~。髪が乱れるだろ~!!」 「あはは。暗い顔してるからだよ。ほら、次のチェックポイントに行くよ!」 そう言われてユカを見ると、木の幹の近くに置かれていたハンコを押したチェックシートをユウにも見せてくれる。 「あと四つ! 絶対に一番になるんだからね!」 「……わかったよ」 ユウはしぶしぶ頷いたが、少しだけこのパーティーでいるのが楽しくなっている自分に気付いていた。 ただ、今はまだ、それを認めたくないという気持ちの方が強いので、言葉にすることはないが……。 #br 次 >>[[SCWOG × SAO 第二のチェックポイント]] #br ---- 執筆:如月わだい 企画:スカイプ通話しながらオンラインゲームWiki ラーミア, yayoi shirakawa ,柊正一 原作:ソードアート・オンライン #br 第五話「第二チェックポイント」の連載予定は三月二十九日頃になります。お楽しみに! #br |